2019年8月11日 更新

アウティングとは何か?アウティングの問題点や加害者の心理とは?

「一橋大学アウティング事件」の裁判が2019年2月に結審されました。アウティングとは何か、カミングアウトとどう違うのか、アウティングにおける加害者の心理とはどのようなものなのか、アウティングの問題点を含めて解説していきます。

目次

事件前の大学の対応

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Bにアウティングをされたのが4月から6月で、7月にはAは大学のハラスメント相談室に相談をしています。また、法科大学院教授にも相談をしました。

大学側の対応は、ハラスメント委員会に提出する書類をAに記入させたこと、話を聞いたこと、専門の病院を紹介したことです。しかし病院は性同一性障害を専門とするところで、自認している性と戸籍上の性に違いがないAには必要のないものでした。

クラス替えやBに直接注意するなどの具体的な対応は行われていません。

両親が同級生と大学を相手に裁判を起こす

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遺族である両親は、一橋大学に対し相談対応の不備などの安全配慮義務違反があったとして、約8576万円の損害賠償請求をしました。またBに対しても損害賠償請求をしました。

両親ともにAがゲイであることは、この事件をもって知らされたということです。

目指していた弁護士になることはできなかったけれど、本人の生きた道が日本の裁判における歴史の中で大きな基準になるような判決になれば、という思いで裁判に臨まれたということでした。

両親の主張

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裁判における両親の主張は、「大学側が、アウティングという一種のセクハラ行為に対し防止対策を行わなかった」「ハラスメント相談室がAの自殺を防ぐ手立てを行わなかった」「授業中にパニック発作を起こすことや薬の処方などについて知っており、自殺の予測ができたのにも関わらず授業に出ることを止めなかった」ということです。

アウティングがBによる加害行為であり、学内いじめであるという認識を欠いていたから救済の対応を行わなかったのではないかとも主張しました。

同級生の主張

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アウティングを行った理由についてBは「友達に自分の状況をわかってもらうためには、こうするしかなかった」と語っています。AがBと友人関係を続けようと行動したことがBには理解できず、精神的に不安定になり不眠になったのでAを避けることにした、Aを避けると他の友人も避けることになってしまうのでアウティングしたという主張です。

しかしAにとって性的指向は「他人に知られたくない秘密」であったことをBは理解しており、裁判でもその旨は認めています。

大学側の主張

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大学側は訴えた両親の主張に対し、「セクシュアルマイノリティも含むハラスメント防止のために努めている」「具体的なハラスメント、アウティングを防止するのは現実的ではない」「突発的な自殺を予測するのは極めて難しい」と主張しました。

また性同一性障害専門の病院を紹介していたことに関しても「専門の相談機関も紹介していた」と主張していましたが、これは大学側がAの相談内容を正しくし理解していなかったという証拠であると両親側は指摘していました。

裁判の結果

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2019年2月、東京地裁で行われたこの裁判の判決が下されました。判決は原告側の訴えを棄却、つまりAの自殺において大学側に責任はないという結果となったのです。

この判決に両親は落胆しました。遺族代理人の弁護士は「アウティングの重大性に一切、触れていない残念な判決で悔しい」とコメントとして出しています。

またBに対しても損害賠償請求を行っていましたが、こちらは2018年に和解したということです。

この裁判の結果を受け、一橋大学がある国立市では、「アウティング禁止」という日本で初めての条例を制定しました。

アウティングの問題点

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裁判ではアウティングがいかに重大な問題であるかには触れることなく、単なる大学側の管理責任を問うものとなってしまいましたが、この裁判をきっかけに世間にアウティングという言葉が広まりました。

「一橋大学アウティング事件」で、アウティングという言葉を初めて知った人も多かったことでしょう。LGBTが一般的になってきた現代において、アウティングは何が問題なのか、アウティングによってどんな不利益が生じるのか解説します。

当事者の意思を無視している

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アウティングにはカミングアウトと違って当事者の意思がなにも反映されていません。いつ、誰に、どんなタイミングで自分の性的指向を告白するかは当事者が決めるべきことであるのに、アウティングではすべて第三者に勝手に決められてしまいます。

アウティングをする側からすれば、Bのように自分が精神的に不安定になってしまった、親切心だった、恥ずかしいことじゃないから公にすべき、など言い分はあるのかもしれませんが、アウティングをする権利など誰にもないのです。

当事者が不利益を被る

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アウティングした人間がどういった理由によってその行動をとったとしても、差別や陰口の対象になるのは当事者です。今までいたコミュニティに居づらくなったり、仕事に影響が出ることもあるかもしれません。

それらの不利益がカミングアウトによるものであれば、当事者も心の準備ができていますし、自分で決断したことによるものですので納得もできるでしょう。

しかしそれが自分の意思に反した他人の行動によって引き起こされた不利益であるのなら、こんな理不尽な話はありません。

アウティングした相手がどう出るかわからない

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もしあなたが他人に第三者の性的指向を聞かされた場合、どのような行動に出ますか。ではあなたの友人はどうですか。その行動は人によってそれぞれです。好意的に受け止めて態度が変わらない人もいれば、たくさんの人に広めようとする人もいるかもしれません。

アウティングを限定した人にしたとしても、そこにいた人だけで情報が留まるとは限りません。人の口に戸は建てられないです。アウティングの範囲をコントロールすることは極めて難しいと言えるでしょう。

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